50年の「思い込み」を捨てた老舗精肉店ニュー・クイック。「製造業」から、顧客起点の「サービス業」への変革を支えた「ファンくる」活用術
全国に店舗を展開し、創業50年の歴史を持つ精肉小売企業、株式会社ニュー・クイック様。長年培ってきた経験と勘を強みに事業を展開してきましたが、顧客ニーズの多様化とともに、従来のやり方だけでは売上を維持・向上させることが難しくなっていました。「自分たちの思い込みで商売をしていた」と語る同社が、顧客起点の経営へ舵を切るために導入したのが「ファンくる」です。
「製造業」から顧客起点の「サービス業」へ。大きな変革を成し遂げ、低迷していた店舗のV字回復にも成功した裏側には、どのような取り組みがあったのでしょうか。
今回は、代表取締役の林社長、販売本部長の須田取締役、営業推進部の櫻井部長に、「ファンくる」導入の背景と、同社に生まれた変化について詳しくお伺いしました。
【課題】
- 50年の経験と勘に頼った「思い込み」による店舗運営
- 顧客起点ではなく、作り手起点の「製造業」的な体質
- 昨対売上を超えられず、成長が停滞していた
- 売上対策=「値下げ」という思考への依存
【導入効果】
- 店舗の課題を可視化し、適切な人員配置で低迷店舗がV字回復
- お客様からのポジティブな声が、現場スタッフのモチベーション向上と具体的な行動変容を促進
- 分析を通して値下げ以外の打開策を発見、「値下げ依存」から脱却
- 顧客ニーズに合わせた商品開発による売上向上
50年の経験が思い込みに。お客様の本音が見えない小売業のジレンマ

――まず、「ファンくる」導入前に感じていた課題についてお聞かせください。
林さん: 私は外食業界出身なのですが、外食と比べて小売業はお客様の声を聞くのが本当に難しいと感じていました。レストランならアンケートをお願いできますが、精肉店でそれをやるのは困難です。お客様が何を望んでいるかわからないまま、「ハレの日だからこれが売れるだろう」「物価が高いから安いものがいいだろう」といった、自分たちの思い込みで商売をしてきたんです。経験だけに頼っていると、様々な企画を考えても、成功と失敗要因が分からず、振り返りができません。結果として前年の売上も取れず、お客様が減っていくことになり、このままでは去年の自分たちに勝てないと、焦りを感じていました。
須田さん: 当社は創業50年ですが、まさにその50年分の経験と勘だけで商売をしてきた側面があります。以前、コンサルティング会社を利用していた時期もありましたが、その時に彼らから、私たちは「製造業だ」と指摘されたんです。顧客起点ではなく、自分たち起点で良いものを作って並べる「製造業」になっている、と。これからは「サービス業」に移行しなければならない、という認識は持っていました。
櫻井さん: 当時のコンサル導入で、マネージャーのレベルアップなど一定の効果はありましたが、費用面の負担が大きく継続には至りませんでした。その後もコンサルを受けた経験からお客様の声を聞く重要性は認識しつつも、具体的な手法を見つけられずにいました。
トライアルで見えたお客様とお店の「フィット感」。低迷店舗がV字回復した理由

―「ファンくる」を導入された決め手は何だったのでしょうか。
林さん: トライアル導入後に納品いただいた事業所診断シート(レポート)が決定打でした。そこで初めて「フィット感」という言葉を聞いたんです。評価が高い店と低い店の差は、お客様の感覚とお店が「フィット」しているかどうかだ、と。詳しく見ていくと、お客様がお店を気に入ってくれているポイントは客層によって異なっており、これをもっと深掘りできたら楽しそうだなと感じたのを覚えています。
須田さん: トライアルを実施した5店舗のうち、ちょうど業績が下がっていたある店舗が、特に「フィット感」が低いという結果が出たんです。要因を分析すると、課題は「接客の距離感」でした。
林さん:当時その店舗に関して、私たちは「あの場所なら、こういうお店がいいだろう」という思い込みでお店を作っていました。しかし、データではお客様が求めている接客と私たちが意識して提供してきた接客にずれがあることが明らかになりました。「来店するお客様が求めているお店になっていない」という現実を示したのです。そこで、思い切ってお客様が求める接客スタイルに一番フィットする店長を配属しました。その結果、今ではその店舗の売上はぐんぐん伸びています。データに基づいた仮説検証が、見事にV字回復につながった瞬間でした。
価格ではなく品質とサービス。データが示した進むべき道

―「ファンくる」のデータをご覧になって、ご自身の感覚とのギャップや印象的だった発見はありましたか?
櫻井さん:当時我々は、競争に勝つためには価格が一番重要だと考えていました。しかし、「ファンくる」のデータを紐解いてみると、当社のお客様が求めているのはコストパフォーマンスだけではなく、品質、味、サービスといった部分であることが分かりました。
林さん: この発見は本当に大きなものでした。これまで売上対策というと、現場も本部もすぐに「値下げします」と言いがちでしたが、値下げは一時的に売上が伸びる「劇薬」です。利益を損ないますし、すぐに効果がなくなります。データによって「安さ」だけが正義ではないと証明されたことで、「サービスも価格の一部だ」という認識を社内に広めることができました。
須田さん: 他にも衝撃だったのがお惣菜の評価です。当時、精肉の相場が厳しく、お惣菜に力を入れようとしていた矢先だったのですが、「ファンくる」でのお惣菜に対する評価があまりにも低く、危機感を持ったことを覚えています。
林さん:そこで、これを機に商品開発の方向性をガラッと変えました。それまではメーカー商品から良いものを選んで仕入れていたところ、お客様は「独自性」や「本当の美味しさ」を求めていることが分かったことで、当社のプライベートブランド肉を使ったお惣菜や、夕方の「揚げたてサービス」などを強化する方向に転換したのです。こうした改善を続けた結果、お惣菜の売上構成比は当時から4〜5%も向上しています。
お客様が精肉店に求めていることとは。現場が動いた「データの力」
―店舗での変化はありましたか?
櫻井さん: 当時の我々は、肉職人としてのプライドもあり、専門的な知識やお肉の提案こそがお客様に喜ばれる接客だと思い込んでいました。ところが、データが示したお客様の満足ポイントは、もっと手前の「立ち寄ったときにすぐ気づいてくれる」「話しかけやすい」といった部分でした。
林さん: そこで、全社的な取り組みとして「七色サジェスト」という活動を始めました。これは、お客様とのよくある7つのシチュエーションに合わせて、望ましい対応を決めたものです。
須田さん:この取り組みを始めて面白かったのが、現場の反応です。精肉店の職人気質なスタッフは、技術的なことには前のめりですが、サービス的なことには反発しがちです。しかし、この時は「ファンくる」のデータという客観的な根拠があったため、反発がほぼありませんでした。むしろ積極的に取り組むスタッフが多く出たことには驚きました。
また、店舗の人間にとって一番響くのはアンケート内のフリーコメントです。「ファンくる」には、店舗へのエールやポジティブなコメントが多く寄せられます。お客様から直接、具体的に褒められる機会はそう多くありません。これが現場への一番の薬で、やる気の源になっています。
櫻井さん:他にも、以前から18時以降の売上が低いという課題があったのですが、これまでは店長が「接客頑張ってよ」と精神論で指示するだけでした。当然現場は「片付けもあって忙しいのに」と、改善に行き詰っている状況でした。それが「ファンくる」導入後、何が原因で18時以降の売上が低いのかが定量的に可視化されました。データという根拠を示されたことで、どうすれば改善できるかが明確になり、これまで精神論で指示するしかなかった店長でも具体的な指示を出せるようになりました。具体的かつ根拠を示すことで、現場スタッフの納得感も増し、オペレーション改善がぐっと進みました。
「思い込みは悪」。データの力を借りて勘と経験を最大限発揮

―最後に、「ファンくる」導入を検討されている企業様へメッセージをお願いします。
林さん:私は一言だけ。「思い込みは悪」です。「ファンくる」は、勘と経験だけに頼っていると感じていた部分だけでなく、気づかないうちに思い込んでいたことにまで気づかせてくれます。
須田さん: 長年培ってきた勘がデータ化されるのは面白いものです。勘も言葉にできないデータの蓄積だと思いますが、それが目に見える形になるのは興味深いです。
櫻井さん:思い込みだけ打ち手を考えると、間違った行動につながってしまいます。「ファンくる」のデータのように定量的な情報も踏まえて状況を正しく把握することで、初めて正しい打ち手が打てるようになると思います。そうすれば、今まで培ってきた経験や肌感覚を最大限に発揮できるようになるのではないでしょうか。